【※涙の物語】「クレヨンしんちゃん22年後の物語」ファンが作った作品が公開され、日本中が涙!!

「――あれ?」

仕事を出る前のひまわりが、オラの様子を見て疑問符を投げかける。

「お兄ちゃん、今日はかなりゆっくりだね。まだスーツじゃないなんて……」

「え?あ、ああ……すぐ着替えるよ。――それより、急がないとまた遅刻するぞ?」

「――あ!うん!」

ひまわりは食パンを片手に、玄関を飛び出していった。

彼女を見送った後で、オラは仏壇の前に座る。

「……父ちゃん、母ちゃん。オラ、会社辞めちゃったよ。小さい頃、父ちゃんにリストラリストラって冗談で言ってたけど、実際そうなると笑えないね」

仏壇に向け、苦笑いが零れた。

「……でも、今日からでも仕事を探してみるよ。……分かってる。ひまわりには気付かれないようにするから。あいつ、ああ見えて心配性だし……」

そして立ち上がり、いつもよりもゆっくりとスーツを着る。

とにかく、片っ端から面接を受けるしかない。そのどれかが当たれば、それに越したことはない。

大丈夫。きっと、大丈夫だ……

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オラは、自分にそう言い聞かせながら、家を出た。

午前中から、色んな企業を周った。
求人案内が出てるところをはじめ、とにかく、直談判した。会社、工場……場所を問わず、とにかく足を運んだ。

……だが、現実は甘くない。
そもそも春先でもない今の時期に、求人があること自体が稀であった。そしてどこも、簡単にはいかない。
どこも同じなんだろう。余裕がないのだ。それに、オラも27歳。うまくいくことの方が、難しかった。

(やっぱり、どこも難しいな。でも、まだ始めたばかりだ……)

そして、オラは街を歩く。仕事を求めるため、乾いた風が吹くビルの隙間を、縫うように歩いて行った。

それから2週間経った。

オラがようやく見つけたのは、小さな工場の作業員だった。
正直、手取りはほんのわずかだ。それでも、働けるだけ運がよかったと言えるのかもしれない。

……しかし、この工場の勤務時間は以前の職場よりも長い。これまで夜7時くらいには家に帰れていたが、帰宅するのはいつも夜11時過ぎなった。
当然、夜ご飯など作る時間はない。

「……お兄ちゃん、最近帰るの遅いね……」

オラにご飯を持って来ながら、ひまわりは呟く。

「……ちょっと、な。働く部署が変わったんだ」

「そうなんだ……なんか、毎日クタクタになってるね」

「まあ、慣れるまでは時間かかるかな……」

ご飯は、ひまわりが作っている。と言っても、冷凍食品が主ではあるが。

それでも作ってくれるだけありがたい。ご飯は水が少なくて固いが、それでも暖かい。

ひまわりに悟られないように、スーツで出勤する。そして仕事場で作業着に着替えるという毎日だ。

はじめ工場長も不思議がっていたが、密かに事情を説明すると、それ以降は何も言わなくなった。

仕事は、かなり労力を使う。

単純な作業ではあるが、一日中立ちっぱなしだ。そこそこパソコンを使えるが、使う機会はほぼない。

流れ作業であるために、オラが遅れれば、後の作業に影響が出る。だから一切気が抜けない。

慣れない作業に、肉体と精神力を酷使し続ける日々は、とてもキツかった。

それでも、今は働くしかない。

休日のある日の朝、オラは目を覚ました。

日頃の疲れからか、体中が痛い。それでも起きて家事をしなければならない。

……だがここで、オラはある匂いに気が付いた。

(この匂いは……味噌汁?)

どこか、懐かしい香りだった。
フラフラした足取りで台所へ行ってみると、そこには鼻歌交じりに料理をするひまわりの姿があった。

「――うん?あ、お兄ちゃん、寝てていいよ」

ひまわりはオラに気付くなり、笑顔でそう言う。

「……お前、味噌汁作れたんだな……」

「し、失礼ね!ちゃんとお母さんから教えてもらってたんですー!」

「母ちゃんから……知らなかったな……」

オラがそう言うと、ひまわりは急に表情を伏せ、寂しそうに呟いた。

「……思い出しちゃうんだ。これ作ってると。――お母さんと、話しながら作ってた時のことを……。だから、いつもは作らないの」

「ひまわり……」

少しの間黙り込んだひまわりは、急に声のトーンを上げた。

「――だから、特別なんだよ?ありがたく思ってよね、お兄ちゃん」

はち切れんばかりの笑顔で、ひまわりはオラの方を見た。
それは、ひまわりなりの誤魔化しなのかもしれない。オラが心配しないための。自分の中の悲しみを大きくしないための。

ひまわりにとっての母ちゃんとの思い出は、暖かいものであると同時に、悲しみの対象でもある。味噌汁を作るということは、その両方を思い出させることになるだろう。
……それでも、彼女はオラのために作ってくれた。だからオラは、それに対して何も言うべきではないんだろうな。

「……いただくよ、味噌汁」

「……うん!」

そしてオラとひまわりは朝食を食べた。

味噌汁は、少し塩辛かった。でも、とても心に沁みた。

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