「――ひまわり、風間くん、オラちょっと、これから仕事があるんだ」
「え?お兄ちゃん、今日は休みなんじゃ……」
「……さっき電話があったんだよ」
「じゃあ、帰ろうかしんのすけ」
「いやいいよ。オラだけ帰るから、二人で楽しんでよ」
オラは、二人の元から離れはじめた。
「ちょっと!お兄ちゃん!」
ひまわりの言葉に手だけを振って答える。
そして一度振り返り、風間くんの顔を見た。
「……風間くん。ひまわりを、頼んだよ」
「……しんのすけ……」
風間くんは、オラの目を見つめ返していた。その目は、オラに何かを訴えていたように見えた。
そんな彼に微笑みを返した後、オラはそのまま、その場を離れていった。
帰り道に、ふと足を止め空を見上げた。そして二人の姿を想像してみる。
きっと今頃は、二人で街を歩いているだろう。風間くんが車椅子を押して、ひまわりが笑って……
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その姿は、オラの心を温かくする。でも少しだけ、寂しさも生まれていた。
「……さて!帰ってご飯の準備でもするかな!」
そんな入り混じる想いを胸に、オラはもう一度歩き出した。
今日は、ひまわりの大好物を作って、帰りを待っていようと思う。
それから、数週間が経過した。
ひまわりと風間くんは、清い交際を続けているようだ。
それは兄としては微笑ましいことではあるが、極度のお母さんっ子である風間くんが、ひまわりとお母さんの板挟みにならないかが少しだけ不安だったりする。
しかしまあ、ひまわりのことだ。持ち前のど根性スキルと負けん気で、難なく色々やってみせるだろう。
今日のごはんはハンバーグにしようと思う。
我が家のハンバーグは、中にチーズを入れる。ハンバーグを開けた時に、トロッと出てくるチーズは、ひまわりが絶叫する程美味なのだ。
「……ん?」
買い物の帰り道、ふと曲がり角にいる不審な人物を発見した。
周りを気にしながら、曲がり角の先をチラチラと覗いているではないか。完璧に、誰が何と言おうと不審者だ。
オラが携帯を手に持ち、ダイヤル110番を押下しようとした直前、その人物に見覚えがあることに気付いた。
(あれは……)
ゆるりと近付き、声をかけてみる。
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