二人は、オラを見て笑っていた。とても、暖かい笑顔……とても、安らげる笑顔だった。
それから数日後、オラは仕事に翻弄されていた。
「――しんのすけさん!これとこれ!すぐにデータにまとめてください!」
「ふぁぁあいぃ……」
目の前には、次々と分厚い資料が山積みとなっていく。
酢乙女グループでは、新事業を進める。
その指揮を執るのが、あいちゃんとなっていた。
おかげで連日この有様。残業に次ぐ残業の毎日。家にはとりあえず帰って数時間程度寝るだけの毎日だった。
しかし今日が山場であり、明日以降は落ち着くとのこと。
オラは袖を捲り上げ、栄養剤を一気飲みする。
そしてパソコンに正対し、キーボードに覇気を込め―――!!
「しんのすけさん!これも追加!!」
……とにかく、頑張ってみる。
オフィスからは、今日もキーボードの音が鳴り響いていた。
クタクタに疲れ果て、家に帰る。
今日は連日の残業を考慮され、日中に退社させてくれた。
玄関を開けるも、もはや『ただいま』を言う元気すらもない。靴を脱ぐなり、這いつくばるように家の中に入って行った。
「―――そうだね。それは分かってる……」
――ふと、台所から、ひまわりの声が響く。
(ん?)
「……そう……うん……ごめんね……」
[add]
どうやら、電話中のようだった。相手はおそらく、風間くんだろう。
盗み聞きをするのもアレだったから、とりあえず二階へと避難することに。
「……でも、やっぱり……そう……ごめんね……」
……何やら、重苦しい口調だった。
なんだろうか。何か、トラブルでもあったのだろうか……。
どうするか悩んだが、あえて声を出してみた。
「……ただいま」
「え――ッ!ご、ごめん!お兄ちゃんが帰ってきた!またあとでね!」
台所の奥から、慌てて電話を切るような会話が聞こえる。
そしてその後、きこきこと音を鳴らしながら、ひまわりは車椅子で出迎えた。
「お、おかえり!今日は早かったね!」
「ああ。ちょっと早く終わってな」
「そうなんだ!ほら、早く着替えてきなよ!」
「……そうするよ」
オラは、家の奥へと向かう。
続きをご覧ください!