「……はあ」
そして、やはりここでため息を一つ。
このコンボは、最近のあいちゃんの鉄板なのだ。
「……お疲れ様」
そんなあいちゃんに、オラは笑顔でコーヒーを差し出す。
「あ……ありがとうございます。しんのすけさん」
あいちゃんも笑顔でコーヒーを受け取るが、その笑顔は、どこか無理やり作っているようにも見えた。
それを証明するかのように、オラから視線を外すやいなや、あいちゃんは再び、重い表情に戻していた。
どうするか迷ったが、オラは直接聞いてみることにした。
「……あいちゃん、最近疲れてるね……。何かあったの?」
「……少し、思うことがありまして……。いつも気を使わせてしまって、申し訳ありません……」
「いや、それはいいんだけど……何か悩んでいるなら、オラにでも相談してよ。出来る限り力になりたいし」
(本当に力になれるかはなんとも言えないけど……)
「……ありがとうございます、しんのすけさん」
[add]
あいちゃんは、再び力ない笑顔をオラに向けた。
何に悩んでいるかは分からない。だけど、オラは彼女のボディーガードであり、友達でもある。
相談してくれるかは分からないけど、もし言ってきた場合は、出来る限り力になろうと決意する。
……そう思った、わずか数日後のことだった……
「――え!?あいちゃんが行方不明!?」
「はい!送迎係の者が、少し目を離した隙にいなくなってしまったようで……」
会社に出勤したオラに、秘書の女性が慌てながら伝えてきた。
あいちゃんが、どこにいるか分からないという。
「GPSとかであいちゃんの場所は分からないんですか?」
「それが、あい様はGPS機能つきの携帯電話、バッグ、靴等をすべておいて行ってしまっているようで……」
(靴にまで……さすがはあいちゃん……)
などと感心している場合ではない。
いなくなったのは自宅敷地内から。そして、寸前まで送迎の車に乗車していた。
状況から考えるに、誘拐の線は薄いだろう。あいちゃん自らが、どこかへ行った――そう考えるのが、妥当だと思う。
ではいったい、彼女はどこに行ってしまったのか……
手がかりは、今のところない。
酢乙女家の監視体制を熟知している彼女にとって、その目を逃れるのは容易いのかもしれない。
「……とにかく、オラも探してみます」
「は、はい!よろしくお願いします!」
オラは急いで会社を飛び出した。
今のところは誘拐ではない。……だが、超大企業のご令嬢がうろつき回っていては、そういう“目”に変わる可能性だって十分考えられる。
(あいちゃん……どこ行ったんだよ……!)
不安な気持ちを抱えたまま、オラは高層ビルが立ち並ぶ街を走り回った。
「はあ……はあ……」
しばらく走り回ったオラの息は、すっかり上がってしまっていた。
行きそうなところを手当たり次第走りまわったが、結局あいちゃんの行方は掴めないままだった。
(もう少し、探す範囲を広げてみるか……)
オラは汗だくのスーツを着替えるべく、いったん家に向かった。
あいちゃんは、いったいどこに行ってしまったのか。そして、どうしていなくなってしまったのだろうか。
最近のあいちゃんの様子は、明らかにおかしかった。
オラに、もっと何か出来ることがあったのではないだろうか……
そんなことを考えながら自宅に戻ったオラは、ネクタイを緩めながら玄関を開ける。
今日は、ひまわりは風間くんと遊びに行っていて、誰もいなかった。
誰もいない家に、オラは一人帰りを伝える。
「……ただいま」
「おかえりなさい。しんのすけさん」
「ああ、ただいま、あいちゃん……」
オラは笑顔を見せる彼女に同じく笑顔を返して、家の奥に向かい…………
………………って
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