まず、着替えることから大変だったようだ。
そしてトイレも、風呂も、今まで簡単にしていたことさえ、大きな労力を使うものになった。
足が使えないのは、これほどまでに自由が効かなくなるものかと驚く毎日だった。
かといって手伝おうとすれば、エッチだのスケベだの言われて追い返されることもしばしば。
しかしまあ、ひまわりは持ち前のガッツを武器に、少しずつその生活に慣れていった。
最近では、二人でよく買い物に行っている。
オラが車椅子を押して、そしてひまわりは笑うんだ。
皮肉な話かもしれない。
ひまわりが事故に遭う以前より、家族の時間が増え、会話も増えた。
もちろん、これで良かったなんてのは口が裂けても言わないし、思いもしない。これから先、ひまわりは、一生背負うことになるのだから。
――でも、重荷を無くすことは難しいけど、減らすことは出来る。
オラが、減らしてやるんだ。
そして、ひまわりが、その名前のように、いつまでも輝ける太陽であり続けるように、支えていく。
[add]
それが、家族ってものだろう。
……そうだよね?父ちゃん、母ちゃん……
――そんな、矢先のことだった。
「――それにしても珍しいね。風間くんがオラと飲みたいなんて……」
「まあ……たまには、な……」
街角の居酒屋で、オラと風間くんは酒を交わしていた。
その居酒屋では、仕事帰りのサラリーマンが、その日の疲れを癒すかのように顔を赤くして騒いでいた。
うるさくはあったけど、どこか幸せそうなその喧騒は、不思議と耳に入っても不快感はない。
そんな店の片隅に、オラと風間くんは座っていた。
今日飲みに誘ったのは他でもない。風間くんだった。
しかし彼は、どこか様子がおかしい。
何か、言いたいことでもあるようだ。
しばらくして、風間くんは意を決して言ってきた。
「……しんのすけ。お前に、話さなきゃならないことがあるんだ」
「……どうしたの?改まって……」
風間くんは、もう一度言葉を飲む。
そして、切り出した。
「……実は、あの日ひまちゃんが帰った時、仕事帰りじゃなかったんだ。
――僕と、会った後なんだよ……」
「……どういうこと?」
「それは……つまり……」
風間くんは、もう一度、息を吸い込む。
……それから先は、聞きたくなかった。
「――僕とひまちゃん、付き合ってるんだ」
「……」
店内が、静まり返った気がした。
他の言葉は、音は、何も耳に入らなかった。
続きをご覧ください!