「……僕はね、一生懸命
に勉強して、大学に入った。大学でも一生懸命単位を取って、卒業も出来たんだよ」
「……」
「……でも、就職先が見つからなくてね。当然だよね。年もそこそこ上で、四流大学出身、何の取り柄もない僕なんて、どの会社も欲しくはないだろうね。
――結局僕は、浪人生活に逆戻りさ。
皮肉だよね。大学浪人を抜け出した先にあったのは、就職浪人なんだよ……」
「……」
確かに、四郎さんが大学を出た頃は、ちょうど就職氷河期と呼ばれていた時代……
就職は、そうとう困難だっただろう。
「……それでも、仕事をしないと生活は出来ない。仕方なく僕は、アルバイトをしたんだ。
……でもそこは、地獄だったよ……」
「地獄……」
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「僕ね、色々鈍いんだ。だから、仕事を覚えるのが遅くてね。
年下のバイトの先輩にはバカにされ、罵倒され……客にはクレーム入れられ、店長には怒鳴られ……そしてまた、後ろ指を指されて笑われる毎日だった……」
「……」
「それでも頑張ったんだ。今は耐える時だ。いつか就職出来れば、この生活も終わりだ。
……そう、毎日自分に言い聞かせてたよ。
そしてついに、僕は就職出来たんだ。小さな会社だったけど、それでも、僕は嬉しかった。これで普通の、落ち着いた生活が出来るって思ったんだ。
……でも、現実は違ってた」
「……それじゃ……」
「そうだよ。そこに待っていたものも、結局地獄だったよ。
怒鳴られ、笑われ、蔑まれ……何も変わらない、苦しいだけの生活だったんだ……」
「……四郎さん……」
「しばらく勤めたけど、最後には鬱になってね。
それを上司に言ったら、あっさりとクビを迫られたよ。
……そしてまた、僕は何もない生活さ……」
「それからはアルバイトしても続かず、その日暮らしの生活だったよ」
「……」
「何のために生きているのかも分からない。ただ生きることにしがみつく毎日。
……それってさ、この世にいないようなものなんじゃないの?
そう考えたら、どうでも良くなってきてね。最後に大金で豪遊して、つまらない人生に終止符を打つつもりだったんだ……」
「……それが、強盗とオラ達を誘拐した理由なんですか?」
その問いに、四郎さんは静かに頷いた。
四郎さんの話は、とても辛かった。
それでも、彼の経験した辛さは、桁違いのものだっただろう。
社会の厳しさに飲み込まれ、絶望し……今の彼は、生き方を失っているのかもしれない。
もちろんそれは、犯罪を正当化する理由にはなり得ない。
……それでも、同情せざるを得なかった。
……だけど……
「……四郎さん……オラは――」
「――ふざけないで!!」
「――ッ!?」
「――ッ!?」
突然暗闇の中、ひまわりの怒声が響き渡った。
オラと四郎さんは、思わず声を出すのを忘れ、ただ彼女を見つめていた。
ひまわりは、四郎さんを睨み付けていた。
さっきまでの怯えていた彼女とは、まったく違っていた。力強く、鋭い目つきだった。
こんな眼がひまわりに出来たことに、オラは驚いた。
「ひ、ひまわりちゃん……」
四郎さんも、動揺していたようだった。
ひまわりは、なおも四郎さんに叫ぶ。
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