「どれだけ辛くたって、どれだけ苦しくたって、それがこんなことをする理由になんてなるわけないでしょ!?
あなたは卑怯だよ!!四郎さん!!自分の環境を、全部他人のせいにしてる!!
――そんなの、卑怯だよ!!」
「……う、うるさい!!うるさいうるさい!!
お前に――お前に何が分かる!!僕が味わった苦しみが、お前なんかに分かるもんか!!」
「辛い思いをしたのは、あなただけじゃない!!誰だって、苦しいことがあってる!!
――四郎さんだって同じでしょ!?あなたに……私とお兄ちゃんの、何が分かるの!?」
「―――ッ!」
「………」
「お父さんとお母さんがこの世を去って……私は、一人ぼっちになったと思った!!でも、お兄ちゃんが助けてくれた!!私は一人じゃないって言ってくれた!!
私が落ち込まないように、無理して笑いかけてくれてたよ!?」
いつの間にか、ひまわりの目からは涙が溢れていた。オラと四郎さんは、ただ彼女の言葉を受ける。
彼女の言葉は、オラ達の時を止めていた。
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「……私、知ってた……お兄ちゃんが、誰もいないところで泣いていたの……知ってた……!!
本当はお兄ちゃんだって……誰かに助けてほしかったんだよ……。
―――本当は、お兄ちゃんだって辛かったはずなのに……お兄ちゃんは笑ってたよ!?
……本当は……お兄ちゃんだって……!!」
言葉の途中で、ひまわりは声を上げて泣き出した。
漏れる息に言葉は飲み込まれ、彼女はそれ以上、何も言えなくなっていた。
「……ひまわり……」
「……だから、なんだよ……。だから、なんなだよ!!」
ひまわりの姿を見た四郎さんは、何かを振り落すかのように声を荒げた。
「……僕には、そんな立派なお兄ちゃんなんていない!!そんな立派な人間にもなれるわけもない!!
誰もが強くなんてないんだよ!!弱い人間だっているんだよ!!
僕だって頑張ったんだ……一生懸命に、頑張ったんだよ!!だけど、うまくいかないんだよ!!
何をしてもダメ!!どれだけ頑張ってもダメ!!全部全部全部……!!
期待しても、結局はみんなうまくいかない!!ぬか喜びだけさせて、あるのはいつもの毎日だけ!!
――そんな毎日なら……それなら……いっそ……!!」
「――いっそ、全部捨ててしまいたい……ですか?」
「―――ッ」
四郎さんの叫びは、たぶん、心の声だったんだろう。
それを聞いて確信した。
……この人は、誰かに助けてほしかっただけだって。
「……四郎さん、オラもね、強くはないんですよ」
「……しんちゃん……」
「父ちゃんと母ちゃんがこの世を去ったとき、オラ、どうすればいいのか分からなかったんですよ。それまで当たり前のようにいた二人がいなくなって……目の前には、泣きじゃくるひまわりしかいなくて……。
……本当はオラだって、ただ泣きたかったんです。でも、ひまわりがいる以上……お兄ちゃんである以上、それは出来ませんでした。
オラまで泣いてしまったら、この子はきっと、オラよりもどうすればいいのか分からなくなる……そう、思ったんです」
「……お兄ちゃん……」
「……正直ね、すごくキツかったんですよ。感情を素直に出すひまわりを見て、何度も羨ましく思ったんです。
どうしてこの子ばかり泣けるんだろう。どうしてオラばっかり強がらなきゃいけないんだろう……そんなことさえ思うこともありました。
――授業参観も、風邪引いた時も、進路指導も、卒業式も、入学式も……オラの隣には、いつも泣き続けるひまわりしかいませんでした」
「………」
ひまわりは、目を伏せた。それを見ると、やはり胸が痛くなる。
この話は、誰にも話したことがなかった。だけど、今話さないといけないと思った。
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