彼の持ってきてたライトは、気付かない間に電池が切れていたようだ。
それでも、いつの間にか、外からは月の光が差し込む。
そして月光のスポットライトは、床に転がる刃物を照らす。
鈍く仄かに光を反射していたが、それはどこか、寂しい光だった。
その後、四郎さんはオラ達を解放し、地元の警察署へ自首した。
オラも、それに同行した。
受付にことの詳細を説明すると、警察官は驚きながらも四郎さんを連れて行った。
『……しんちゃん、僕、罪を償うよ。そして、もう一度頑張ってみるよ……』
彼は、最後に微笑みながらそう言った。疲れ切っていたが、その顔には、どこか生きる強さを感じた。
彼を見送った後、オラもまた事情を聞かれた。
狭い部屋に案内され、調書を取られる。
調書を取った刑事さんは、オラにこう言ってくれた。
『どんな理由があるにせよ、彼のしたことは簡単に許されることではありません。
……でも、彼は罪を償おうとしている。そこに、大きな意味があります。彼は、きっとやり直せますよ―――』
思わず、頭を下げた。
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四郎さんが起こした事件は、こうして幕を閉じる。
しかし、これもまた、今の社会を表すものなのかもしれない。
世の中、うまくいくことなんて少ない。辛い毎日が続いたり、連続で不幸が訪れることなんてしょっちゅうだ。
それに耐え続けるのは、誰であっても顔を伏せてしまうこともあるだろう。時には耐えきらず、どうすればいいのか分からなくなるだろう。
……だからこそ、笑うんだ。不幸なんて吹き飛ばして、笑うんだ。
そうすれば、きっと何かが生まれるはずだから。それを見た人も、きっと幸せになるはずだから。
だからオラは、四郎さんを待とうと思う。そして彼が、全てを償った時、笑顔で出迎える。
それが、オラが四郎さんに出来る、友人として出来る、最善のことだと思うから……
ひまわりは先に家に帰っていた。
一人だと怖いだろうからと、眠るまでは一緒にいた。
やはり相当疲れていたのだろうか、彼女はすぐに寝息を立てていた。
一人、帰り道を歩く。
そして家に辿り着いた時、玄関先にその人がいることに気付いた。
「……やあ」
オラは、少し笑みを浮かべながら声をかける。
「……おかえりなさい、しんのすけさん……」
その人――あいちゃんもまた、オラに返事を返す。
「オラを待ってたの?どうせなら、家で待ってればよかったのに……」
「いいえ。帰りを待つのも、妻としての役目ですので……」
「だから、まだ妻じゃないって。……それより、さっきはありがとう」
一瞬、あいちゃんは面をくらったように驚く。
「さっき、オラ達が捕まってた時、外にいたんでしょ?」
「……いつ、気付かれましたか?」
「別に、気付いてはいないよ。……ただ、あいちゃんのことだ。車椅子に、何か仕込んでたんでしょ?」
「……お察しの通りです。ひまわりちゃんの車椅子には、ひまわりちゃんの心拍数を計測して、もし異常値が出た後に席を離れた時、背に向けて発信機を飛ばす仕組みがありました」
「だろうね。天下の酢乙女グループの最新型だし、そんくらいの凄い機能はあると思ってたよ」
「………」
すると急に、あいちゃんは表情を暗くする。視線を下に向け、口を噛み締めていた。
そしてしばらく沈黙した後、静かに、口を開いた。
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