【※涙の物語】「クレヨンしんちゃん22年後の物語」ファンが作った作品が公開され、日本中が涙!!

「――戻りました、お嬢様……」

今度は床下から這い出てきた黒磯さん。何でもありのようだ……

(ていうか、早すぎるだろ……)

そして黒磯さんは、一枚の紙をあいちゃんに渡す。
それを見たあいちゃんは、目を伏せた。

「……なるほど……こんなことが……しんのすけさんの心中、お察しします」

「察する程でもないって。特に何も考えてなかったからね」

「それでも、人のために行動するその御気持ち……あいは、感動しました!」

あいちゃんは紙を抱き締めながら、天を仰いだ。

「そんな、大袈裟だなぁ……」

するとあいちゃんは、視線をオラに戻す。そして、優しい笑みを浮かべて、切り出した。

「――しんのすけさん、あなたは、今の職場で働いていくおつもりですか?」

「う~ん……まあ、僕がいないと困るだろうし……。それより、なんで?」

「……実は、酢乙女グループの本社ビルで、新しく1名の雇用を募集しているのです」

「酢乙女グループの?」

「そうです。――しんのすけさん。そこに、応募してみませんか?」

「……え?」

「給料は今よりはいいはずです。少々体力を使いますけど……」

「いやいや、それはダメだよ」

「どうしてですか?」

「だって、なんかそれって、卑怯じゃないか。あいちゃんのコネで入るみたいな感じで……」

そう言うと、あいちゃんはフッと笑みを浮かべた。

「しんのすけさんなら、そう言うと思いました。……ですが、その心配には及びませんわ。
その募集自体は、一般に正規に知らせていること。それに、私がするのは、あくまでもそれを紹介しただけにすぎません。結局採用されるかどうかは、しんのすけさん次第なんですよ」

「あ、そういうこと……」

そしてあいちゃんは、表情を落とした。

「……ごめんなさい、しんのすけさん。本当はすぐにでも採用したいのですが……」

「分かってるって。あいちゃんは、そこの重役だしね。知り合いだからって、重要な仕事を無条件に任せるなんてしちゃいけないよ。
――そうだな。でも、せっかくあいちゃんが勧めてくれたから、ダメ元で受けてみるよ」

「……はい!頑張ってください!あいは、信じております!」

そしてオラは、応募した。
――だがその時、オラは知らなかった。オラが応募したそれが、どういう仕事であったのかを……

それから1週間後、オラは酢乙女グループ本社ビルの前にいた。

「ここが……」

摩天楼の真ん中にそびえ立つ、超巨大高層ビル……。見上げると、目眩を起こしそうになる。

「……やっぱ、超巨大企業だよな……」

しかしまあ、見上げてばかりでは前に進めない。
とりあえず、中に入ることにした。

入り口を入ると、エントランスホールが広がる。
しかしまあ、無茶苦茶広い。たぶん、あの工場くらいの広さがある。
何だか場違いなところに来てしまった気がする。

(……いかんいかん。今の内から呑まれてどうする。落ち着くんだ……)

一度大きく深呼吸したオラは、受付に話しかける。

「――あ、あの……」

「はい。いかがされましたか?」

「ええと……今日予定されている、採用試験を受けに来たんですが……」

「……あなたが……ですか?」

受付の女性は、どこか不審がるような目をしていた。受けるのが、そんなに珍しいのだろうか。はたまた、オラが何かマズイ格好でもしてるのだろうか。……まあ、確かに安物のスーツだが……

「……試験会場は、15階の会議室です」

しばらくオラを見つめた女性は、淡々とオラにそう説明した。
なんだか腑に落ちないけど、とりあえず、オラは15階に向かった。

「ここか……」

看板の立てられた会議室を見つけたオラは、一度深呼吸してドアを開けた。
ここに、ライバル達が……

「…………」

――目の前の光景に絶句する。

会場にいたのは、オラが想像していた人ではなかった。
皆、屈強な体をしている。顔に傷があったり、筋肉隆々だったり……。オラがドアを開けるや、全員が鋭い目つきでオラを睨み付けてきた。
その部屋だけ、海兵隊か何かの部屋のように異様な雰囲気だった。

「……間違えました」

オラは静かに、ドアを閉める。
そして入り口に立て掛けられた看板を、もう一度じっくりと眺めてみた。

そこに書かれていた文字は、何度見ても採用試験会場……間違いはないようだが……

何はともあれ、とりあえず中に入ることにした。

それから少ししたら、試験官がやって来た。
年配の、とても小さい人だった。プルプル体が小刻みに震えている。
オラも浮いているが、オラよりもっと浮いていた。

「……えぇ、それでは、試験の説明に入らせていただきます。
試験は3日に分けて行われます。それぞれ、面接、体力、実技を行う予定です」

(実技って……何の?)

「それでは、さっそく始めますね。――ではまず、グルチェンコフさん」

「俺ノ出番カ!!採用ハ俺ガモラウカラナ!!HAHAHAHA…!!」

ゴリマッチョのドデカイ外国人さんが、片言で出ていった。ロシア人だろうか。
……てか、あんな人も受けてるんだ……

そこに来て、もしかしたら、すんごく変なものに応募してしまったのではと思い始めた。
だって、どう見てもパソコンとか使えそうにないし。
重火器使わせたらランボーより強そうだし。

全員が、まるで戦闘前のように瞑想にふけってる。
よく見れば、思い切りミリタリーチックな服装をしている人もいた。
スーツは、オラだけだった。

(……あいちゃん。オラに、何をさせようとしてるの……)

周囲を横目で見渡した後、溜め息を吐きながら、項垂れるしかなかった。

それから、続々と歴戦の猛者共が呼ばれていった。
全員が一様に、気合を入れて出ていく。
この人達は、戦地にでも赴くのだろうか……まあ、ある意味戦場ではあるけど。

どう考えても、会社員より兵隊さんが合ってると思うけど。

「――次の方……しんのすけさん!」

「あ―――はい!」

ついに、オラの名前が呼ばれた。

「……オイオイ見ロヨ」ヒソヒソ

「ナンダアイツハ。マルデモヤシジャナイカ」ヒソヒソ

「ダガ、俺達カラスルト、ライバルガ減ッテ助カルナ」ヒソヒソ

「マッタクダ。HAHAHA…」ヒソヒソ

メチャメチャ笑われてる。ていうか、片言なのにやけに達者だな。
確かに、ここにいる奴から見れば、俺は笑いの対象だろうけど。

なんだか居心地が悪くなったオラは、足早に面接会場へ向かった。

「――野原、しんのすけさんですね?」

「は、はい……」

面接室は、無駄に広い別の会議室だった。
そこに、試験官が2人いた。どう見ても、普通のおじさんだが。

「それでは、さっそく面接を開始します」

「は、はい!」

「……これから、あなたにいくつか質問します。その質問に対し、嘘偽りなく答えてください。なお、あなたの座る椅子には、ポリグラフ装置が組み込まれています。きちんと、答えてください」

「ポリグラフ……」

(つまりは、嘘発見器か……)

変わった面接だと思う。
通常、面接では大多数の人が本音を隠して受け答えをするし、企業側もそれを百も承知するはず。
なんだろうか。正直に言う人間に信用を置くのだろうか……

そして面接官は、重い口を開いた。

「――では、始めます……」

「………」ゴクリ

「……今まで、重火器等を用いて、人を撃ったことはありますか?」

「…………………はい?」

「また、それにより、人の命を奪ったことはありますか?」

「いやいやいやいやいやいや……ちょっとちょっと……」

「むぅ……ポリグラフが乱れていますね。一度、落ち着いてください」

(落ち着けるかあああああああ!!)

なんだこの質問は!?ポリグラフなんて使う必要もないだろ!!なんだこれは!!ふざけてるのか!?

……そこで、オラは察した。
きっとオラは、見かけだけで落とされたのだと。だからこそ、適当な質問をされているのだと……
おそらくは、これからも無茶苦茶な質問が来るだろう。

なんだか、凄く頭にきた。それに伴い、やけに頭が冷静になっていく。

(……いいさ。どんな無茶苦茶な質問でも、何でも答えるさ。オラの経歴に驚くがいい……!!)

そして、オラの戦いが始まる。

Q 今まで、人の命を奪ったことは?
A 人の命を奪ったことはありませんが、目の前で人がこの世を去ることになる

のは見ました

Q これまで行ったことがある場所で、変わったところはありますか?
A 過去と未来に行きました。あと、別の星とか。

Q これまでで、悪の組織等と戦闘したことはありますか?
A たくさんの悪の組織と対決しました

Q それは、例えば?
A 別の世界のオカマとか、世界征服を企む悪の組織とか。悪の組織はいろいろいました。世界を昭和時代に戻そうとしてたり、時間犯罪者だったり。ああ、サンバ躍らせたり人を動物に変えようとした奴もいましたね。

Q それらの組織は、どのようにして勝利したのですか?
A 色々です。正義の味方と一緒に戦ったり、象になったり、温泉入ったり。

Q それでは、これまでで一番の功績は?
A もちろん、幾度となく世界の危機を救ってきたことです。みなさんは知らないかもしれませんが、今の世界があるのは、全部オラ達のおかげなんです。

Q オラ達?他に、誰と一緒に?
A 両親等の家族や友達です。家族で世界を救ったことの方が多いでしょうね。

Q 分かりました。最後に、何か武道の心得はありますか?
A 小さい頃に、剣道をしてました。

Q 最終成績は?
A ちびっ子剣道大会で決勝まで行きました。辞退しましたけど。

Q その理由は?
A 当時テレビであってた、アクション仮面が見たかったからです。それに、当時のライバルに勝てたから満足しましたし。

Q 分かりました。ありがとうございました。
A いえいえ。どういたしまして。

……こうして、色々捻じ曲がった面接は終わった。

しかしながら、今考えても、小さい頃のオラって色々凄いな……

初日が終わったオラは、帰りながら項垂れていた。
あんだけ無茶苦茶な質問が繰り返されたんだし、たぶん無理だろ……

とはいえ、試験は全て受けないといけないらしい。
本音を言えばもう行きたくないんだけど……それだと、せっかく紹介してくれたあいちゃんに申し訳ない。

しかたなく、二日目以降も行くことにした。

「――お兄ちゃん、なんか疲れてるね……」

家で、オラにお茶を出しながらひまわりが呟いてきた。

「ああ、ありがとう。……まあ、ちょっと慣れないことやったしな……」

(あんな面接、慣れてる人の方が珍しいだろうけど……)

するとひまわりは、困ったように微笑みかけてきた。

「……お兄ちゃん、無理しないでよね。お兄ちゃんさ、ときどき、色んな事を全部一人で背負っちゃうし」

「……」

「私もいるんだからね?家族なんだし……。だから、その……うまく言えないけど……」

あまり慣れないことを言ったからか、ひまわりは言葉に詰まってしまった。
……でも、それでも、彼女の気持ちは、思いは、十二分に伝わってきた。

「……ありがとう、ひまわり。少し楽になったよ……」

「……うん。頑張ってね!お兄ちゃん!」

ひまわりは、太陽のような笑顔をオラに向けた。

ひまわりは、漢字で向日葵と書く。別名、日輪草。
……父ちゃん、母ちゃん、ひまわりは、名前に負けないくらい、太陽のような女性に育ってるよ。

――明日も、頑張ろう。

――試験二日目。

この日は体力試験。酢乙女グループが所持する、ドームで開催。
とりあえずジャージで出場。
他の軍人(?)様は、皆が白いタンクトップ。
際立つ筋肉。漂う漢達の匂い。
……暑苦しい。

――第1種目「100m走」――

オラの記録、16秒。
他の皆様、平均11秒。
いや早すぎでしょ。

――第2種目「懸垂」――

オラの記録、4回。既に腕がパンパン。
他の方々……平均100回オーバー……
どういう体の構造してんの……

――第3種目「ソフトボール投げ」――

オラの記録、55m。
他の方々……100m越え連発……
野球選手でも目指しているのだろうか……

こうして、体力検査は進んでいった。
結果から言えば、オラが圧倒的最下位をひた走る形となる。
頑張ろうかと思ったけど、流石にもう無理だろうな。
他の方々が逞しすぎるし。

……そもそも、いったいなんの採用になんだろうか……

そして試験は、最終日を迎える。

「――今日の試験最終日は、実技です。みなさん、頑張ってください」

「イエッサー!!!!!」

年配の人は、そう話す。
他の方々は、元気いっぱいに答える。

実技の場所は、とある建設現場……なぜこんなところだろうか。
ていうか、実技ってなんだろう……

オラの不安を他所に、試験官はよぼよぼと話す。

「……今日は、試験責任者である、酢乙女あい様が見学に訪れています……お嬢様、どうぞ……」

すると、試験官の後ろからあいちゃんが出て来た。

「皆様、今日の試験、頑張ってください」

「ウオオオオオオオオオオ!!!!」

興奮する男共。

(あいちゃん、来てたんだ……)

あいちゃんはオラの方を一度だけ見て、小さく笑みを零した。

(あいちゃん……オラ、もう無理っぽい……)

そして、試験官は口を開いた。

「――さて……そろそろ試験を開始―――」

――その時……

「――全員動くな!!」

「………へ?」

突然、その場所に男の怒鳴り声が響き渡った。

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