「……もう、聞いてるかもしれないけど。僕な、海外の支社を任せられることになったんだよ」
「……ああ、聞いたよ」
「だろうな。――ホント、大出世だよ。言わば、僕は支社長になれるんだ。
これまで頑張ってきた苦労が実ったんだ。こんなに嬉しいことはない。僕は、意気揚々と彼女――ひまわりちゃんに報告したんだ」
「………」
「そしたらね、彼女言ったんだ。“私は、どうなるの?”って。僕は、すぐに彼女が言わんとすることが分かったよ。
……彼女は、本気だったんだ。本気で僕と、一生添い遂げるつもりだったんだ。だから僕が海外に行くことに対して、自分はどうなるのかって聞いてきたんだよ。
本当に、嬉しかったな。海外の支社を任され、好きな女性に本気で想われて……人生で、最高の瞬間だった」
風間くんは、少し照れるように話していた。……でも、その顔は長くは続かなかった。すぐに視線を落とし、呟くように話した。
「――しんのすけ、これから先は、怒らずに聞いてほしい」
「……分かった」
オラの返事を待って、風間くんは切り出す。力強く。はっきりと。
「……彼女の想いに触れて、僕は決めたんだよ。一生、彼女を大切にしよう。添い遂げようって。
――だから僕は、彼女にプロポーズしたんだ。――結婚を、申し込んだんだよ」
「………」
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雨は、更に激しさを増していた。
「そしたらさ、見事にフラれたよ。僕の思い違いだったみたいだ。……まったく。カッコ悪い話だよな、ホント……」
彼はそう話しながら、苦笑いを浮かべていた。
だけど、オラは気になっていた。
ひまわりは、なぜ風間くんとの別れを選んだのだろうか……。
彼女の想いは、オラが見ても分かるくらい本気だった。にも関わらず、彼女は別れを選んだ。
……その理由は、容易に想像出来た。
だからこそオラは、両手を握り締めた。握る拳は震える。我慢するのに、一生懸命だった。
「……風間くん。ひまわりは、なんて言ってた?」
「……」
「……教えてくれ。風間くん……」
風間くんは、少し躊躇していたようだ。それでも、話してくれた。
「……彼女が言ったのは……」
「………」
「―――――、―――――」
「………」
風間くんの言葉は、囁くように、静かにオラの耳に届いた。
雨音は激しく響く。だけど彼の声は、それを潜り抜け、やけにはっきりと聞こえた。
(………クソ……)
思わず、そう思った。
それは、オラ自身に対する言葉だった。
風間くんと別れ、オラは家路につく。
雨は一段と強く降り注いでいたが、オラには傘をさす気力すらなかった。
(……ひまわり……)
ずぶ濡れになりながら、雨の中に彼女の姿を思い浮かべる。
大切な家族。大切な妹。
いつも明るく、笑顔を向ける彼女。
……オラの、たった一人の、家族……
「………」
無言で、玄関の扉を開ける。
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