「……!」
感情が、昂り始めたのが分かった。
たまらずオラは、乱雑にテーブルの上にお金を置き、店を飛び出した。
「し、しんのすけ!」
風間くんの声が聞こえた。
でもオラは、何も聞きたくなかった。
夜の町のなかを、早足で歩く。一歩でも遠くに行きたかった。
ひまわりは、風間くんと会っていた。
そしてその帰り道、事故に遭った。
――たった一人で、帰る途中に……
「――おい!しんのすけ!」
街中から少し外れた公園で、風間くんはオラに追い付いた。
後ろから、風間くんの息が切れる音が聞こえる。ずっと走ってきたのだろう。
でも今は、顔を見たくなかった。
風間くんは、オラの背中に向けて話しかけてきた。
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「……しんのすけ、黙っていたのは悪かったと思う。いつか言おうと思っていたんだ」
「……」
「でも僕は、真剣なんだ!真剣に、ひまちゃんを幸せにしたいんだ!だから――」
「――だから……なんなのさ……!」
「――!」
思わずオラは、風間くんに詰め寄る。そして気が付けば、彼の胸ぐらを掴んでいた。
「……オラが言いたいのは、そんなことじゃない!」
「――ッ!」
「どうしてひまわりを、一人で帰らせたんだよ!どうして、最後まで見送らなかったんだよ!
その帰りに――アンタと会った帰りに、ひまわりは事故に遭ったんだぞ!?
アンタが一緒なら、違ってたかもしれない!
――一生重荷を、背負うこともなかったかもしれないだぞ!?」
「……しんのすけ……」
……分かってる。
彼に、非はない。こんなのは、ただの八つ当たりだ。
それでもオラは、オラの心は、行き場のない怒りを、彼にぶつけるしかなかった。
そうしないと、頭がどうかなりそうだった。
「……ごめん、しんのすけ……」
風間くんは、静かにそう呟いた。
そしてオラは、投げ捨てるように彼の体を解放する。
風間くんは、力なく硬いアスファルトに座り込んでいた。
「……しんのすけ……」
「――止めてくれよ!」
「……!」
「……今は、何も聞きたくない……!」
そう言い捨てたオラは、そのまま公園を立ち去る。
振り返ることなく、風間くんを振り払うように……
家に帰る足取りは、とても重かった。
歩き慣れたはずの道は、とても遠く感じた。
その日は、月明かりが出ていて、道路にオラの影を作っていた。
……でも、その夜は、どこまでも深い闇色に染まっている気がした。
「……」
家には、ひまわりが待っている。
オラの帰りを、待っている。
……それが、途方もなく足を重くしていた。
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