「……どうしてオラ達を?」
すると四郎さんは、失笑するかのように、短く笑う。
「……そんなもの、決まってるじゃないか。
――金だよ……」
四郎さんは、ライトの光をオラに当てる。
眩しくて眉をひそめていると、四郎さんの声が響いた。
「噂で聞いたよ。――しんちゃん、キミ、酢乙女グループのご令嬢と婚約したらしいじゃない。
……凄いよね。日本トップレベルの大企業のご令嬢だよ?これから先、遊んで暮らせるだけの金が入るんだ。
……許せないよね。僕はこんなに苦しいのに、キミは想像も出来ないほど、裕福な人生を歩むんだ」
「……」
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「……だからさ、その幸せ、少し分けてほしいんだ」
「……あいちゃんに、身代金を要求つもりなんですか?」
「そうだよ。いくらにしようかな……。キミのためなら、いくらでも出しそうだけどね。ヘヘヘ……」
ライトの逆光で、四郎さんの顔どころか、姿すらもは見えない。
まるで闇の底から、声だけが響いているようだった。
彼は今、笑ってるのか……それとも、泣いているのか……
しかし彼の口調には、どこか儚さも感じられる。
“引き返せない”……
彼はそう言った。
四郎さんは、本当は止めてほしいのだろうか。
少なくとも、オラの知る四郎さんは、ケチで気弱でスケベだけど、本当はとても優しい人だった。
絶対に、こんなことをするような人ではなかった。
……それなら、どうして……
「……四郎さん……何があったんですか?何があなたを、こんなことまでさせてるんですか?」
「……」
オラの問いを受け、少し、ライトの光が下がった。そして彼の顔が浮かび上がる。
……彼は、涙を流していた。
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