もう一つは13歳の時、同様に鏡台の前で歯を提供するように指示されます。
これも代によって数が違います。
自分で自分の歯を抜き、母親はそれを鏡台の二段目、やはり隠し名を書いた紙と一緒にしまいます。
そしてまた一日中、母親は鏡台の前で座って過ごします。
これが二つ目の儀式です。
この二つの儀式を終えると、その翌日?16歳までの三年間は「教育」が全く行われません。
突然、何の説明もなく自由が与えられるのです。
これは13歳までに全ての準備が整ったことを意味していました。
この頃には、すでに母親が望んだとおりの生き人形のようになってしまっているのがほとんどですが、
わずかに残されていた自分本来の感情からか、ごく普通の女の子として過ごそうとする娘が多かったそうです。
そして三年後、娘が16歳になる日に最後の儀式が行われます。
最後の儀式、それは鏡台の前で母親が娘の髪を食べるというものでした。
食べるというよりも、体内に取り込むという事が重要だったそうです。
丸坊主になってしまうぐらいのほぼ全ての髪を切り、鏡台を見つめながら無我夢中で口に入れ飲み込んでいきます。
娘はただ茫然と眺めるだけ。
やがて娘の髪を食べ終えると、母親は娘の本当の名を口にします。
娘が自分の本当の名を耳にするのはこの時が最初で最後でした。
これでこの儀式は完成され、目的が達成されます。
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この翌日から母親は四六時中自分の髪をしゃぶり続ける廃人のようになり、亡くなるまで隔離され続けるのです。
廃人となったのは文字通り母親の脱け殻で、母親とは全く別のものです。
そこにいる母親はただの人型の風船のようなものであり、
母親の存在は誰も見たことも聞いたこともない誰も知り得ない場所に到達していました。
これまでの事は全て、その場所へ行く資格(神格?)を得るためのものであり、
最後の儀式によってそれが得られるというものでした。
その未知なる場所ではそれまで同様にして資格を得た母親たちが暮らしており、
決して汚れることのない楽園として存在しているそうです。
最後の儀式で資格を得た母親はその楽園へ運ばれ、後には髪をしゃぶり続けるだけの脱け殻が残る…
そうして新たな命を手にするのが目的だったのです。
残された娘は母親の姉妹によって育てられていきます。
一人でなく二?三人産むのはこのためでした。
母親がいなくなってしまった後、普通に育てられてきた母親の姉妹が娘の面倒を見るようにするためです。
母親から解放された娘は髪の長さが元に戻る頃に男と交わり、子を産みます。
そして、今度は自分が母親として全く同じ事を繰り返し、母親が待つ場所へと向かうわけです。
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