それは、人間の子供サイズの日本人形だった。
日本人形の首だけが無表情に廊下の角からこちらを覗き込んできている。
俺は「…え…ちょ…」と声にならない声を出しながら後ずさりし始めた。
AもBも同じで、あまりにも不気味な光景に後ずさりしている。
人形は一度首を引っ込めると今度は体全体が廊下に出てきたのだが、
その姿は身の毛もよだつという言葉がまさにぴったり来る異様さだった。
上半身は和服を着た大きめの日本人形なのだが、
下半身は何か真っ黒のベタベタしたヘドロのような物体に埋まっており、
引き摺っているように見えたのはそのベタベタした黒い物体の後ろのほうだった。
その黒いヘドロのような物体は、まさに俺達が昼間みた物体そのものだった。
人形はなおもこちらに近付いてくる、そして近付くにつれて鼻をつくような生臭さが漂ってくる。
俺達はなおもずるずると後ずさりし、玄関から外に出たのだが、
その時俺はある事に気が付いた。
動揺していてそこまで気が回らなかっただけだとおもうのだが、
この人形、何か歌いながら近付いてくる、耳を澄ますと、民謡の手毬歌のような、
でも良く聞いてみるとお経にも聞こえるような、
不思議で不気味なフレーズの歌を歌いながら近付いてくる。
結構近くで聞いているはずなのだが、何故か歌詞はわからないのだが…
俺たちが後ずさりして道のあたりまで出た時、
Bが「おい、やべーよ!」と俺とAに森のほうを見るよう促した。
俺とAが森のほうを見ると、あちこちの藪がガサガサと揺れている、
何か沢山の物がこっちに近付いてくるようで、その数はどんどん増えてきている。
更に、そのガサガサ言う音に混じって、
人形が歌っているのと同じフレーズの歌があちこちから聞こえ始めた。
俺はAとBに「やべぇよ!逃げるぞ!」と大声で言い、そのまま全力で道を走り出した。
俺達はそのまま全力で息が切れるまで多分1kmくらいは走り続けたと思う、
流石に疲れてAが「ちょっと待てって!」と俺達を呼びとめその場にヘタリこんだ。