穴沢利夫大尉(享年23歳)「婚約者に宛てた手紙」
穴沢大尉には智恵子さんという婚約者がいました。
二人は昭和16年にそれぞれが学生であったときに知り合い、交際を始めたのです。
当時、学生同士の恋愛は、はしたないものと言われていました。
しかし二人の間は本当に純粋な愛情で強く結ばれていたのです。
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二人で力を合わせてつとめてきたがついに実を結ばずに終わった。
希望を持ちながらも心の一隅であんなにも恐れていたのだ。
時期を失するといふ事が実現してしまったのである。
去年十日、楽しみの日を胸に描きながら池袋の駅で別れたが、
帰隊直後、我が隊を直接取り巻く状況は急転した。
発信は当分禁止された。転々と所を変えつつ多忙の毎日を送った。
そして今、晴の出撃の日を迎えたのである。
便りを書き度い、書く事はうんとある。
然し、そのどれもが今迄のあなたの厚情に御礼を言う言葉以外の
何物でもないことを知る。
あなたのご両親、兄様、姉様、妹様、弟様、みんないい人でした。
至らぬ自分にかけて下さったご親切、全く月並みの御礼の言葉では済み切れぬけれど、
「ありがとうございました」と最後の純一なる心底から言っておきます。
今は従に過去に於ける長い交際のあとをたどりたくない。
問題は今後にあるのだから。
常に正しい判断をあなたの頭脳は与えて進ませてくれる事を信じる。
しかし、それとは別個に婚約をしてあった男性として、散ってゆく男子として、
女性であるあなたに少し言って征きたい。
それは・・・
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